昨年7月の豪雨で被災した、創業190年の歴史を誇る熊本県人吉市九日町の老舗旅館「鍋屋本館」が、9カ月ぶりに営業を再開した。まだ温泉は使えず、食事なしの素泊まりのみの仮営業だが、7代目女将[おかみ]の富田峰子さん(60)は「本格営業に向けた第一歩。少しでも人吉の復興に貢献したい」と力を込める。
球磨川沿いに立つ鍋屋本館は、江戸時代後期の文政12(1829)年創業。全ての客室から清流と国指定史跡の人吉城跡を一望できる。歌人の与謝野晶子夫妻らが利用し、1962年には皇太子だった上皇ご夫妻も宿泊された。
7月豪雨では、氾濫した球磨川と支流の山田川の濁流が押し寄せた。床上2メートル超まで漬かり、温泉施設や調理場は水没。1階ロビーに飾っていた江戸期から人吉球磨に伝わるウンスンカルタ、日本遺産の一勝地焼などの史料も流失した。
宿泊客や従業員は上階に避難して無事だったが、1階は泥土で無残な姿になった。「まさかここまでの水害が起きるとは思ってもみなかった」。富田さんの夫で会長の正彦さん(62)は振り返る。
参照:熊本日日新聞(https://kumanichi.com/news/id197088)